2020年8月2日(日)
ようやく梅雨明け。あたらしい月に変わったとたんに、夏らしい青空になった。気づけば、春学期の授業はすべて終わり。ちょっとひと息である。いつもの学期なら、フィールドワークに出かけたりカレーキャラバンの活動があったり、あるいは、ふつうに通勤で運転しているだけでも、少しは日に焼ける。カメラの具合かもしれないが、オンライン会議や授業で見るじぶんの顔が、(この時分にしては)なんだか白くて、ちょっと気になる。
7月のはじめに、七夕祭があった。バーチャルなキャンパスに、およそ7000人が集ったらしい。そのときのようすは、「おかしら日記」に書いた。ぼくたちの知らないところで、イベントの準備をしていた学生たちへの敬意を表しながら書いたつもりだったが、あらためて読み返してみると、ぼくたちの身体について語っていたのだということに気づいた。
ぼくが纏っていたアバターは、誰にも気づかれることのない“ゴースト”になっていた。それが象徴的で、いまは地に足がつかない状況なのだ(というより、足がないのかもしれない)。『ゴースト』(もう30年前の映画だ)に描かれていたように、すぐ目の前に見えているのに、触れたくても触れられない。バーチャルキャンパスを動き回る身体は、彷徨う。👻
昨年の花火は、(ちょうど選挙が終わったところで)変化の訪れを実感しながら眺めた。さらに遡って、2011年のことが頭をよぎる。あの年は、大変だった。学期のスタートが遅れ、変則的な学事日程になって、日曜日も授業のために出かけた。それでも、出席率は高かったように思う。あの夏の花火は、心をしめつけた。今年は、画面のなかで“ゴースト”のまま花火を見上げていた。
オンライン授業は、最初は不安もあったが、徐々に慣れてきて、なんとか終えることができた。献身的な同僚たちのおかげで、オンライン開講のためのサポートは充実していたし、アンケート調査を見るかぎり好意的な回答が多い。結論からいうと、学生も教員も、今学期は(それなりに)がんばったのだと思う。やはりウチのキャンパスの教員たちの多くは、大変なときにこそ、その状況を乗り越えようとするのだろうか。
リドリー・スコット(ピンと来る人は多いと思うけど、『エイリアン』『ブレードランナー』『ブラック・レイン』などの監督)らがすすめている『Life in a Day』というプロジェクトがある。あらかじめ決められた日に撮影された映像を、世界中から集めて編集する、参加型のドキュメンタリー映画だ。調べていたら、前回からちょうど10年が経ち、2020年のバージョンは、7月25日(土)が撮影日だという。この手の試みはたくさんあるが、一人ひとりが出し合う映像を束ねることによって、「ある一日」の記録ができる。こういうのは、好きだ。
そこで、「研究会(ゼミ)」のメンバーに声をかけて、7月25日に「あなたにとって、大切なモノ・コトはなんですか」という問いにこたえる映像を撮ってもらうことにした。誰が、どのように編集するかを決めないまま(伝えないまま)その日をむかえ、晩には、ぼくの分をふくめて25本のビデオクリップが集まった。つくづく、スマホのおかげだと思う。ひと昔前だったら、事前の計画など、かなりの手間暇がかかる。
やることはいろいろあるが、早めにまとめておいたほうがいいと思って、ひさしぶりにビデオ編集。といっても、見ていて飽きない程度の尺におさまるように、25人分のビデオを切って並べて。みんな、無事に学期末の「ある一日」を過ごしていた。穏やかであり、同時に、少しずつ動きはじめていることも感じられた。「あれ、ぼくってこんなに学生たちのこと好きだっけ?」とじぶんを疑うほどに、みんなに会いたくなった。
7月最後の金曜日は、会議があった。ぼくが、議事進行の役目だ。オンラインの「会議室」にいながら、ウェブで資料を眺めつつ、同時にSlackでもやりとりする。80数名が出席している会議なので、全体を追うのはなかなか面倒だ。Slackというのは、いわばインカム(インターカム)のようなもので、「人数の確認OKです」「そろそろこの話題は切り上げよう」「いくつかの議題は次回でもいいよね」などと、事務担当や補佐をお願いしている同僚たちと、絶え間なくやりとりをしながら進行する。ちょっとモタつく場面があって、もちろん、そのようすは、ビデオを介してみなさんに晒されていた。
七夕祭の裏側で、バーチャルキャンパスの実装に勤しんでいた学生たちは、熱気につつまれ、強力な一体感のなかで作業をすすめていたにちがいない。会議を一時中断して、みなさんをお待たせしながらSlackでやりとりしていたぼくたちにも、確実に熱気と一体感はあった。そして、それ以上の焦燥感(汗)も。予定していた時間を40分以上オーバーして、(なんとか無事に)会議が終わった。
なんとなく、最近は映画やテレビなど映像的な記憶が呼び起こされることが多い気がする。数か月、平たいディスプレイばかりを眺めているからだろうか。地に足のつかない、“ゴースト”のような暮らしが続いているからだろうか。今月は、(気をつけながら)太陽を浴びたい。
写真は7月30日。梅雨明け前のキャンパス。