折り返し

2021年6月4日(金)

いろいろと書き留めておかないと、すぐにわからなくなる。ゴールデンウィーク明けの5月7日、11日までだったはずの緊急事態宣言が5月末まで延長されることが決まった。5月28日になって、さらに6月20日まで。結局のところは、2か月近くは緊急事態宣言のもとで暮らすことになった。
5月9日に予定されていた「2020年度入学生の集い」は、あおりを受けて中止となった。これは、その名のとおり、昨年度入学の現2年生を対象とした企画である。今年度については、入学式を(学生のみという不完全な形ながらも)実施することができたが、昨年は中止になってしまった。だからこそ、現2年生にぜひとも届けたいイベントだった。授業も4月末からオンラインに移行して、ますます心が痛む。

昨年の春学期は、全面的にオンライン授業になった。事前に決まっていたので、そのつもりで授業の準備をすることができた。不慣れなことも多く、戸惑いもあったが、おかげでじぶんの教授法について考えるきっかけになった。あらためてふり返ると、2020年は歴史に残る年なのだと思う。(ほぼ)全ての教員が、オンライン授業を体験したからだ。COVID-19の感染拡大という、なんとも不迷惑なきっかけではあったものの、「やるしかない」という状況になった。
この春は、許されるかぎり対面(オンキャンパス)で開講するつもりでいた。最初の3週間くらいは教室で集まることができたが、ふたたびオンライン授業へ。昨年度の経験があるので、授業の質はそれなりに維持できていると思う。とにかく、2年目ともなると、やるせない。

この1年は、いわゆる遠隔会議・講義用のシステムをかなりの頻度でつかってきた。他にさほど選択肢がないので受け入れざるをえないのだが、どうも好きになれない。難しいことだと知りながらも、やはり教室での一体感を少しでも味わいたいと思う。じぶんのしゃべり方や資料のつくり方なども、オンライン授業のためにあれこれ工夫している。機材のことなどもふくめて、同僚・同業者たちの試みは、大いに参考になる。
1月にGather.townのことを知り、その後は、成果発表の展覧会や「研究会」で、活用してきた(展覧会のことについては「展覧会を開く」「This is how we "gathered" this year」を参照)。リアルな教室での体験にはかなわないが、こっちのほうが、だいぶ気分がいい(https://www.instagram.com/p/CO1IzkDjI1F/)。だから、授業の教室もGather.townのなかにつくることにした。

これまでの経験だと、学期をとおして授業を続けていくと、なんとなく学生の顔を覚えるようになる。ぼくは、授業をしつつ前方から教室を眺めていて、回を重ねるごとに、受講している学生を位置で把握するようになる。というのも、学生たちは、一人ひとりの好みで席をえらび、毎回だいたい同じ席に座る傾向があるからだ。名前はわからなくても、たとえばいつも前の席に座っている学生、いつも(ぼくから見て)左後方にいる学生など、おそらく、教員の立ち位置からの眺めは、学生が想像している以上に整然としていて、その並び方は規則的にくり返されているのだ。
形状や机、イスの並べ方は、ほぼ同じ雰囲気になってはいるものの、画面のなかにつくられているのは、おもちゃのような(初期のビデオゲームのような)教室だ。不思議なことに、画面のなかの教室でも、学生たちはリアルな教室でえらんでいたのと同じ席に座るようだ。わずか3週間ほどだったが、リアルな教室での体験は、不完全ながらもバーチャルな教室のなかで再現されている。

ぼくは、授業の教室のみならず、Gather.townのなかに共同研究室もつくった。今年の春から「研究会」のメンバーになった2年生のことばが、印象的だ。現2年生は、リアルなキャンパスの体験が希薄だ(昨年度をとおして、一度もキャンパスに足をはこぶことができなかった学生は少なくない)。彼女は、数週間とはいえ教室に通った体験があったことで、画面のなかの教室にも多少なりとも親近感をいだくことができるという。例にもれず、画面のなかでも違和感なく「いつもの席」をえらんでいる。一時的に、平板な教室に移動しているという感覚だろうか。
いっぽう、彼女は、リアルな共同研究室にはいちども入る機会がないまま「全面オンライン」に移行してしまった。だから、バーチャルな共同研究室のなかでは、戸惑うのだという。なんとなく雰囲気は再現されているのだが、そもそもリアルに先行してバーチャルな共同研究室に入ると、居場所が見つからないということらしい。ぼくたちの知っているシミュレーターと呼ばれるものは、さまざまな理由で、リアルに先行してバーチャルな体験を実現するためのものだ。だから、バーチャルな共同研究室での活動は、やがてリアルに集うときのための予行演習だといえなくもない。いまは落ち着かない気持ちをいだきながらも、バーチャルな共同研究室に慣れておけば、いずれはリアルな行動に活かさればいい。そんなことを考えた。(おそらく、ギャップに驚く場面もたくさんあると思う。)

そして、この1か月はいろいろな変化もあった。あたらしい塾長が決まり、5月28日から新体制で動きはじめた。4年ごとに訪れる大きな「節目」なのに、春学期の半ばという、なんだか不思議にさえ思えるタイミングでの交代である(もちろん、理由はあるはずだ)。あたらしい塾長のもと、土屋さん(現総合政策学部長)が、8月から常任理事になることが発表された(おめでとうございます)。SFC担当の理事ということなので、これからぼくたちが引き起こす(かもしれない)トラブルの解消や、お願いする(かもしれない)案件の検討など、「面倒なこと」の多くが土屋さんに集中するのだろうか。
そして、同じ役目でいろいろな場面でご尽力いただいた國領さんが、8年という任期を終えることになった(長い間、ありがとうございました)。

COVID-19については、良くも悪くも常態化している。これを書いている数日前には、ワクチンの職域接種についてのアナウンスがあった。報告される感染者数は、減少傾向にある。そして、学期は早くも折り返し。

f:id:who-me:20210531134658j:plain写真は5月31日(月)。いよいよ、工事がはじまる。