「これから」に向けて

SOURCE: 委員長メッセージ | 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科

2019年の秋から研究科委員長の役目を担うことになり、あっという間に2年が経ちました。あたえられていた任期の大部分はCOVID-19に翻弄され、学生や教職員のみなさんとキャンパスで顔を合わせる機会がほとんどないまま過ごすことになりました。いまなお不自由に感じることはたくさんあるのですが、ふり返ると、キャンパスや大学院のありようについて、あらためて考えるよい機会になったと思います。

たとえば昨年の春学期は、すべての授業をオンラインで開講することになりました。かねてより遠隔での授業や会議が行われてきたので、オンラインに移行する素地があったのは幸いでした。くわえて、こうした窮地につねに正面から向き合い、乗り越えようとするSFCの気風も手伝って、不安を感じながらも意義深い学期になりました。授業のみならず、さまざまな文書作成や手続きも可能なかぎりオンラインで対応できるよう調整がすすんでいます。国内外で開催される学会への参加、海外の大学・組織の研究者たちとの交流は、オンラインの可能性を再確認する契機になりました。移動する自由は奪われたものの、一連の体験をとおして、私たちの意識、学び方・働き方も変容しつつあるのかもしれません。

政策・メディア研究科は、創設当初から、さまざまな問題領域を横断的・複合的に扱うことを標榜しています。それは、実験的な試行を重視する態度や方法に表れています。多様なテーマに応じて、ものづくり、実験、フィールドワーク、インタビュー、さらにはワークショップや社会実践にいたるまで、現場に密着した「実学」への志向が育まれ、共有されてきました。直接体験が大切であると理解していればこそ、この1年半の体験をふまえて、「これから」の学問のあり方について熟考し実践してゆくことが、私たちの使命だといえるでしょう。

また、これまでの慣例や制度によって惰性や弛みが生まれていたことも実感しました。長きに渡ってつくられてきた仕組みを前提に発想するのではなく、私たちの感性や想像力を活かしながら、開講形態や時間割の構成をはじめ、学位取得に向けたプロセスの見直しなどもふくめ、大学院での学び方を「全体として」再考する機会が訪れています。

2021年10月1日から、引き続き、研究科委員長を務めることになりました。無自覚に「これまで」を参照することなく、つねに実験するマインドを持ちながら、「これから」の大学院、ひいては学術研究のありようについて、みなさんとともに考えていくつもりです。

(2021年10月1日)