花火

2020年7月21日(火)*1

アバターを準備することができなかった。ぼくは、あの無味乾燥なロボットを纏って、大階段の前に立っていた。どうやら参加者が一定数を越えると、"ゴースト"になってしまうようだ。不自由なく動けるが、こうしてぼくがキャンパスにいることに、誰も気づいてくれないのだろうか。
まずは、まっすぐ階段を上ってすすみ、メインステージを眺めた。それからぐるっとひととおりキャンパスを巡る。なかなかいい感じだ。"ゴースト"なのは残念だが、徐々に気分が上がってきた。きょうは、年に一度の七夕祭なのだ。

通算で6年くらい(もっと長いだろうか)、学生生活委員会(SL委員会)のメンバーとして仕事をした。じつは、その役目から眺める七夕祭は、楽しいことばかりではない。実行委員会の学生たちと、準備の段階からあれこれとやりとりする。全体の構成、安全・衛生対策、キャンパスの利用、出展者への連絡などなど。学生たちが主体となってすべてを計画し、実行しなければならない。準備の遅れ、段取りの甘さ、連絡の不行き届き。いつものように、ハプニングは続出する。もちろん対立する必要はないのだが、ちょっとばかり注意をしたくなる。ときには、厳しいことばをかける。だが結局のところ、教職員は学生たちを見守り、支えようとする。教室にかぎることなく、キャンパス全体を使って、いろいろなことを学ぶ。そんな空気が、ここには流れている。
七夕祭の晩、学生生活委員会のメンバーは、いくつかの班に分かれてキャンパスの巡回をおこなう。模擬店の火器の扱いはだいじょうぶか、不審なモノが置き去りにされていないか。大学の教員が、そんな「夜回り」の仕事までするのかと、家族には苦笑される。だが、腕章をつけて、懐中電灯を片手に撤収間近の七夕祭を歩くのも、悪くない。
アナウンスがあると、いそいそと片づけがはじまる。花火が打ち上がる前に、撤収をすすめるのだ。ぼくたちも、無事に片づけがはじまっていることを確かめてから、花火を待つ。準備から当日にいたるまでの苦労は、花火とともに散る。それは、「終わり」の合図だ。

まだしばらく時間がある。ぼくは、教室に入ってみた。なかには見慣れた机が並び、窓の外には短冊が提がった七夕飾りが見える。なるほど、よくできている。教室に入ったとたんに、アイコンが頭上に表示されて、"ゴースト"ではなくなった。ちいさなアイコンが頭上に表示されるだけで、じぶんの身体を取り戻すことができたような、不思議な感覚をおぼえる。これで、気づいてもらえる。
教室にいた新入生たちと、少しことばを交わした。ここでは音声で会話できるはずだったが、上手くいかず、テキストでやりとりした。アバターどうしなら、もっと近づいてもよさそうなのに、バーチャルな教室のなかでも、ぼくたちはお互いの距離を意識しながら立っていた。
「先生たちは、ふだんはどこにいるんですか」と聞かれた。そんな「常識」とも呼べそうなことを質問されて、ちょっと戸惑いもあったが、多くの新入生にとって、このキャンパスを身体で理解するのは難しいことなのだ。一つひとつの授業はオンラインで成り立っているが、そもそも、みんなでキャンパスを共有している感覚はない。入学してから、キャンパスを歩き回るのが初めてに近い状況なのだから、建物の配置や構造などから紹介する必要があることに、あらためて気づいた。
いま、通学時間や昼休み、放課後を過ごすといった体験がそぎ落とされている。ふだんなら、キャンパスを歩いていれば、誰かに出くわすこともある。ちょっと立ち話をする。授業のこと、キャンパスのことなど、学生生活を豊かにする知恵や工夫は、友だちとの雑談やおしゃべりのなかで身についてゆく。いまは、誰かと出会うことさえ、ままならないのだ。

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花火の時間が近づいてきたので、おしゃべりを切り上げて、部屋を出た。いつも、鴨池を臨む場所が人気だ。すでに、たくさんのアバターたちが集まっていた。花火が上がる直前、ほんの一瞬だけ、みんなが息を合わせているかのように静かになる。ほどなく、BGMとともに花火が打ち上がった。これは、たしかに花火だ。夜をつつむ空気も、人びとの息づかいも、背中を流れる汗も、あるはずの感覚が足りない。でも、今年もキャンパスで花火を眺めることができた。
前のほうに、法被を着た実行委員会のメンバーらしき姿が見えた。労いのことばでもかけようかと思ったが、ぼくはふたたび"ゴースト"になっていた。頭上で乾いた音が響く。ぼくは、誰にも気づかれることなく、夏の夜空を見上げていた。

4か月

[12] 2020年7月18日(土)

(6月20日〜7月18日)あっという間に学期末をむかえ、ドタバタとしている。今学期の記録にと思って書きはじめた「コロナと大学」は、最初のころにくらべてペースダウン。一か月ほど空いてしまった。まだ最終報告や採点などの仕事が残されているが、ようやく「終わり」が見えてきた。いろいろと考えさせられることが多く、一段落したらまとめて書くつもりだ。
引き続き、備忘をかねて記録しておこう。「ひと月」(3月4日〜4月15日)、「ふた月」(4月16日〜5月15日)、「3か月」(5月16日〜6月19日)を経て、もう4か月である*1

6月20日(土)
6月22日(月)

企画だけしていながら、しばらく動きだせていなかった「オンライン授業にかんするオンラインインタビュー」のプロジェクトをスタート。今学期担当している講義科目の受講者に案内を出して、反応があった(+日程調整が上手くいった)学生と、1対1で15分ほどおしゃべりする。その音声ファイルは”Keep Calm and Stay Online”というラジオ番組のように仕立てて公開。協力してくれたお礼には、特製「ハッピーターン(SFC30)」をプレゼント。*2

  • 学生との面談(オンライン授業にかんするオンラインインタビュー)(15分×4)

Keep Calm and Stay Online(7月18日現在:進行中)

6月23日(火)
  • 学生との面談(45分)
  • 研究会(180分)

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6月24日(水)
  • 学生との面談(オンライン授業にかんするオンラインインタビュー)(15分×2)

そして、オンライン会議(×3)

  • その1(120分, 議事進行)
  • その2(120分)
  • その3(120分)
6月25日(木)
  • 授業:フィールドワーク法(90分)
  • 大学院生とのミーティング(120分)
  • 打ち合わせ(60分)
  • 学生との面談(45分×2)
6月26日(金)
  • 会議(60分)
  • 大学院生とのミーティング(90分)
  • 会議(60分)
  • 会議(60分)
  • 会議(60分)
6月28日(日)

近所のレストランで、ひさしぶり(およそ3か月ぶり)の外食。完全予約制のレストラン。けっきょく他に客は現れず。

  • 東京都の新規患者にかんする報告件数:60
6月29日(月)
  • オンライン面談(60分)
  • 学生との面談(45分)
6月30日(火)

2020年度教育・研究活動を維持するための基本方針、および、特別研究プロジェクト等夏季休業期間における教育活動の指針 が発出される。SFCは「レベル3」のまま。
「研究会」では、「卒プロ2」(今学期で卒業予定)の最終報告。まずは、お疲れさまでした!きょうは、大学から配信。

  • 学生との面談(45分)
  • 学生との面談(45分)
  • 研究会(180分)

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🌧きょうの「研究会」は、大学から配信。ひとりは、つまらない。雨が激しくなってきた。 #vanotica20s #stayonline

7月1日(水)

今学期は、予定していたフィールドワークをすべて中止。オンラインでインタビューをおこなうプロジェクトをすすめてきた。タイムラインの考察などもすすめていく予定。それぞれの場所。一人ひとりの暮らしについて。「ちょっと窮屈な毎日」のサイトを公開。

  • ちょっと窮屈な毎日(It's a bit tight) https://fieldwork.online/20s/
  • 大学院セミナー
  • 会議(120分)
  • 会議(60分)
  • 大学院レビュー(150分くらい)
7月2日(木)
  • 授業:フィールドワーク法(90分)
  • 打ち合わせ(60分)
  • 大学院AP:モバイルメソッド(90分)

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☀️きょうの「モバイル・メソッド」は、軽井沢から(うそです)配信。よく晴れました。 #mm20s

7月3日(金)
  • イベント(マンスリー)を公開
  • おしゃべり(80分くらい)

ひょんなことから「三宅島大学」への問い合わせがあり、三宅島でゲストハウスを営む伊藤さんとZOOMでおしゃべり(初対面)。話が盛り上がって、あれこれと妄想する。

7月4日(土)

オンラインで七夕祭。なかなか、よかった!
(このときのようすは、「おかしら日記」に書くつもり → 7/21公開予定)

f:id:who-me:20200704193450j:plain2020年7月4日(土)|じつは、ワイン飲みながらバーチャルキャンパスにいた。

7月7日(火)

朝は、打ち合わせのため三田キャンパスへ。検温してから会議室に入り、マスクをして距離を空けて座る。午後はオンライン。

  • 打ち合わせ(60分くらい)
  • 研究会(180分)
  • 会議(90分くらい)
7月8日(水)

そして会議日。

  • その1(60分)
  • その2(120分, 議事進行)
  • その3(120分)
  • その4(120分)
7月9日(木)
  • 授業:フィールドワーク法(90分)
  • 大学院生とのミーティング(120分)
7月10日(金)

「100+20人の東京」展へ。クルマでギャラリーに行った。カレーキャラバンのパネルも展示されていて、いよいよ、動き出したい気分になる。

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ギャラリーA4(http://www.a-quad.jp/

  • 東京都の新規患者にかんする報告件数:243
7月12日(日)

4年生が取り組んでいる「卒プロ」の実践を体験。予定どおり、朝、“Yoko Eats”が届いた。箱を開けると、食材と調味料とレシピ。レシピどおりに調理をして、お昼は「定食」を。なかなか楽しかった。ちょっと、カレーキャラバンのことを思い出す感じ。

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7月14日(火)

きょうはおべんとうを持って大学へ。やはり職場までのドライブは、大切だと思う。

  • 研究会(180分)
7月15日(水)

午前中はお墓参り。

  • 大学院レビュー(150分くらい)
7月16日(木)

きょうも、大学から配信。「フィールドワーク法」「モバイルメソッド」は、今学期最終回。あっという間だった。

  • 授業:フィールドワーク法(90分)
  • 大学院AP:モバイルメソッド(90分)
7月17日(金)
  • 学生との面談(オンライン授業にかんするオンラインインタビュー)(15分×3)
  • 打ち合わせ(60分)
  • 学生との面談(オンライン授業にかんするオンラインインタビュー)(15分×3)
  • 会議(90分くらい)
  • 東京都の新規患者にかんする報告件数:293
7月18日(土)
  • 学生との面談(オンライン授業にかんするオンラインインタビュー)(15分×3)
  • 会議(60分)
  • (いまここ)

(つづく)

イラスト:https://chojugiga.com/

*1:必要に応じて、適宜加筆・修正します

*2:じつは、4月の中ごろには、同僚ともおなじようにおしゃべりをする時間を設けていたが、授業がはじまって予想以上に忙しくなり、休眠状態に。

イベント

2020年7月3日(金)

そして7月。梅雨時だというのに、外の天気があまり気にならない。そう、外に行く予定がほとんどないからだ。規模はともかく、いわゆる「イベント」がない。淡々と、時間が流れてゆく。起伏のない、規則的な毎日だからかもしれない。
そんななか「あたらしい生活様式」「あたらしい日常」などということばが飛び交うようになり、少しばかり違和感をおぼえながら過ごしている。ちょうど、この春学期は、研究会(ゼミ)で「チャラ」という関係のあり方について考えている。もちろんぼくも、「あたらしい(ナントカ)」という言い方をする。これからが大切だということはいうまでもない。だが、「あたらしい」を使うと、これまでのことを置き去りするような感覚になるのだ。この数か月が「チャラ」になるはずもないのに。

この時期、多くのセミナーや学会は、オンラインでおこなわれることになった。ここ数年、同僚の諏訪さん、東工大の藤井さんとともに人工知能学会で「臨床の知」というオーガナイズドセッションにかかわってきた。3年目の今年も、発表することが決まっていた。大会のプログラムを確認すると、セッションは第一部が朝の9時から、第二部が15時半からとなっている。本来であれば前日に熊本に行き、大会に参加していたはずだが、自室にいるまま、画面越しに学会に参加することになった。じつはこの日は、授業も大学院生とのミーティングもある。偶然にも第一部と二部とのあいだに予定されていたので、休講もキャンセルもなく、すべての予定をこなすことができた。
不思議な体験ではあった。学会に出てから授業とミーティングを経て、ふたたび学会へ。これは、オンラインでなければ実現しなかった。同じ部屋で同じイスに腰かけたまま、頭を切り替えるのは、なかなか難しかった。「イベント」を実感するには、やはり移動が必要なのだろうか。

いつも学期中には2回ほど、「キャンプ」と呼んでいるフィールドワークのプロジェクトを実施している。学生たちと、宿泊をともなうかたちで全国のまちに出かけて、まちの調査をおこなうものだ。もともとは、熊本で開催される学会につなげるかたちで「キャンプ」を企画していた。つまり、学会を終えてからそのまま熊本に残り、学生たちと合流して、その週末はフィールドワークをおこなう計画だった。
けっきょく、今学期に予定していた「キャンプ」は中止せざるをえなくなった。15年くらい続けてきた「キャンプ」は、天候が理由で延期(中止)になったことが数回あったが、新型コロナウイルスのせいで、動きを止められてしまった。
47都道府県を踏査するという計画で、あと8府県というところまできていた(地域別インデックス → https://camp.yaboten.net/entry/area_index)。いままでどおりのペースで、あと2年もすれば「コンプリート」を達成できる見込みだったが、もう少し先になりそうだ(ところで、『キャンプ論』は、出版してから10年経って2刷が出た。もともと爆発的に売れるような本ではないが、細々と手にしてもらっているのだろう。ゆっくり続けることの大切さも書かれているので、ちょうどいいのかもしれない)。

今学期は、試しにオンラインで「キャンプ」を実施することにした。これは、フィールドワークやインタビューなど(の調査)を、家にいながら実施できるかという、興味ぶかい問いに直結している。誰かの暮らしに近づき、その「日常」に直接触れながら知ろうとすることの価値を、もういちど問いなおすことになる。
学生たちはペアになって、オンラインのインタビューを試みた。ふだんは合宿しながら短期集中で成果を出すやり方だが、今回は一定の期間を設けて、その間にインタビューの相手も、日時も調整し、オンラインでのやりとりをもとに文章を綴った(ちょっと窮屈な毎日 → https://fieldwork.online/20s/)。一人ひとりの〈ものがたり〉こそが、ぼくたちの「日常」を考えるのに役立つ。なるほど、同じ部屋で同じイスに腰かけたままでも、世界と接点をもつことができる。そう思った。

6月の末、およそ3か月ぶりに外食をした。妻の誕生日を祝うために、近所のレストランを予約した。完全予約制になっているし、さまざまな対策を講じているようだったので、出かけることに。「おうち」の食事に身体がなじんでいたからだろうか。つぎつぎと刺激物をとり込んでいるような感じがした。結局、他に客は姿を見せず、貸し切り状態。ひさしぶりの「イベント」だった。マスク越しに、夜風を吸い込んだ。

f:id:who-me:20200630162502j:plain写真は6月30日。ひさしぶりのキャンパス。