海の日

2022年7月18日(月・祝)

先月は、書けなかった。これまで「マンスリー」として、1か月の動静をまとめることにしていたが、いろいろなことが起きて、ドタバタしているうちに7月もすでに半分が過ぎ、ようやくの「マンスリー」である。(つまり、2022年6月の「マンスリー」は欠号に。)

6月1日の「偲ぶ会」が終わるまで、心が落ち着かなかった。ゴールデンウィークのころに同僚の訃報が届き、じぶんはもとより、学生も同僚も、とにかくキャンパス全体が暗い雰囲気になっているように感じられた。じぶんよりも歳の若い同僚だということもあって、余計に苦しかった。その知らせが届く一週間ほど前にはZoomでミーティングをしていたので、そのときの声色が、いまだに頭に残っているような気がする。
「偲ぶ会」の司会をすることになって、じつは緊張していた。もちろん、教壇に立つ仕事をしているのだし、なんとかなるとは思いながら、「偲ぶ会」のような場面できちんと役目を果たせるかどうかわからずにいた。でも、ご指名をいただいて、断る理由はもちろんなかった。ぼくよりも、はるかに近しいところで公私ともにつき合いのあった同僚たちのようすも心配だった。壇上でしゃべっている間に感情が押し寄せて、くずおれるようなことがあったら、臨機応変に対応できるのだろうか。そんなことを考えていた。
会場となった教室には、たくさんの人が集まった。学生も、同僚も、前任校時代の卒業生たちも。「偲ぶ会」は滞りなくすすみ、ほぼ予定どおりに閉会となった。無事に終えることができてほっとすると同時に、どっと疲れが出た。この「偲ぶ会」を経て、少し前向きになることができた。

5月の後半には、学生たちと一緒に訪れたまちからも、知人の訃報が届いた。数年前にたびたび行く機会があり、フィールドワークの段取りから寝食にいたるまで、丸ごとお世話になった。アルバムのフォルダをあさって、当時の写真を眺めた。大雪の日があって、いま考えれば連泊しほうがよかったほどだったのだが、夜になってから東京に向けてクルマを走らせた。チェーンをつけて視界の悪い中をひたすら走り、雪道を抜けてほどなく、まるでそのタイミングを待っていたかのようにチェーンが切れてしまった。そんな思い出は、場所と人と強く結びついている。秋になったら、ひさしぶりに訪ねてみたいと思っている。

前回の「マンスリー」で書いたように、じぶん自身も「節目」を迎えたばかりで、いろいろなことが頭を巡っている。COVID-19の影響下にあって、働きかたについて考える機会が増えたことはまちがいない。体調はもちろん、心も穏やかな状態で毎日を過ごさなくてはと思う。仕組みや慣例そのものを見直さなければならない立場にいながら、何もできていない。ストレスが充満しているのを感じながら、無力感に苛まれる。
対面でのコミュニケーションの場面が増えてきて、つい(COVID-19以前の)「あたりまえ」に戻ると思いがちだ。これまで我慢していた時間を取り戻そうという気持ちの表れでもある。だが、もはや何が「あたりまえ」だったのかさえ、わからなくなっている。じぶんが意識している以上に、じぶんの発することばが人に影響をあたえうることも思い知った。もちろん、校務は相変わらず忙しい。未来を構想する夢にあふれる仕事よりも、目の前で起きるいろいろなことへの対応が絶えない。その都度、事情を聞いて、どのように向き合えばいいのかを考える。じぶんの役目だとはいえ、いろいろな人の事情を聞けば聞くほど、驚いたり心を痛めたりする。

妻と小椋佳のステージを観に行った。熱烈なファンというわけでもないが、長きにわたってたくさんの楽曲を耳にしてきた。銀行マンでありながら、シンガーソングライターとしてデビューした。いまでこそ、「二足のわらじ」は珍しくなくなったが、当時は、それこそ働きかたとしてはとてもユニークなものに見えた(「シンガーソングライター」ということばも、その頃に生まれたのだろうか)。デビュー50周年だという。ぼくよりも一回り以上も上なのだが、とにかく50年間、地道に歌をつくり、歌ってきたことは素晴らしい。しみじみと、詩に聴き入った。
ホールは、シニア層でほぼ満席だった。そのことも、微笑ましかった。いろいろある(あった)けど、その一つひとつがあるから毎日があたらしい。一人ひとりの人生経験が、このホールで束ねられていると思うと、なんだか不思議な感じがした。

ひさしぶりの出張もあった。両学部長とともに、大阪シティキャンパスに行き、学部・大学院の説明会を開いた。午前の部を終えて、駅に接続した大型施設をぶらつく。日曜のお昼どき、たくさんの人で賑わっていた。それなりに忙しいおかげで、あっという間に一週間が過ぎる。気づけば、梅雨明けしていた。七夕祭の3年ぶりの花火。同僚たちと一緒に夜空を見上げた。

そして、これを書いているいまも、心は穏やかではない。世界情勢もCOVID-19のことも直近の事件も、とにかくいろいろなことが起きていて、落ち着かない。こんなときは、まずはじぶんの落ち着きを取り戻すのがいい。かつてイギリス政府は、「Keep Calm and Carry On」という宣伝ポスターをつくった。さほど流通しなかったようだが、メッセージは明快だ。まずは、穏やかに「ふつう」を続ける、ということだ。その上で、やるべき仕事に向き合おう。
もう6、7年前になるが、これをもじって「Keep Calm and Curry On」というTシャツをつくった。暑い日が続いているので、こんなときこそカレーをつくろうか。春学期の授業はすべて終わった。いい夏にしたい。

写真は6月26日:ひさしぶりの出張。