立夏

2022年5月5日(木)

🎏いくつになっても、誕生日は「こどもの日」だ。

昨年は、春学期がはじまって数週間経ったところで、3回目の緊急事態宣言が発出された。対面で授業をスタートさせたものの、4月末からはオンラインに切り替えることになった。6月の終わりに宣言が解除されたが、わずか数週間でこんどは4回目の緊急事態宣言。結局のところ、学期の大部分はオンラインになった。そのまま夏休みをむかえて、9月の末まで解除されなかった。

そして一昨年にいたっては、すでに3月中旬の時点で春学期中はすべてオンラインで開講することが決まっていた。「決まっていた」というより、その対応を考えたり決めたりする立場(3役のひとり)にあって、ドタバタしていた。就任して半年足らずで、わからないことがたくさんありすぎた。まぁそれなりに、たくさん仕事はしていたと思う。
この2年は、もともとオリンピック開催をふまえた学事日程が組まれていて、いつもより授業の回数が少なかった。

だから、今年は(テレビなどでもしきりに報じられているように)3年ぶりの「緊急事態宣言なしのゴールデンウィーク」である。ここまで、講義も研究会(ゼミ)も、対面で実施している。大学院の授業はオンラインで開講していて、多くの会議もオンラインのままだが、打ち合わせや面談などは可能であれば対面の機会をつくるようにしている。じぶんの(そして相手の)健康は第一に考えながら、やはり、ぼくはフェイス・トゥ・フェイスのほうがいい。画面ごしの「対面」には限界があると思う。たびたび書いているが、コミュニケーションには身体が必要なのだ。

一日の予定のなかにオンラインと対面が混在するようになると、なかなか面倒だ。どのタイミングで移動してよいのか、段取りが大事になる。ここ数年は、ぼくのカレンダーは秘書室で管理している。そのほうが、じぶんでやるよりも迅速で間違いがないのだが、事前に情報共有をしておかないと大変なことになる。来客や打ち合わせなどは、空いている箇所を見ながら先方と調整がおこなわれるわけで、ちょっと目を離すと(大げさか)容赦なく「すき間」が埋まってゆく。たとえば「対面」なのか「遠隔」なのか、そもそもキャンパスにいるのか都内にいるのかといったことを、じぶんでもよく考えないと一日の動きが取れなくなる。

5月3日は祝日だったが、「授業日」だった。今学期は、すでに対面のモードに切り替わっていたのか、これまで窮屈な想いをしてきたことへの反動なのか。ぼくは、祝日であっても迷うことなくキャンパスで開講すると決めていた。晴天。すがすがしい朝だった。ぼくは、レジャー仕様のクルマ(最夏ごろから、車中泊できるように整えている)で、東名を使って職場に向かった。渋滞するだろうと思って、かなりの余裕を見込んで朝7時半くらいに家を出たが(いつもは1時間くらいでキャンパスに着く)、予想以上の渋滞だった(事故も数件)。けっきょく、10時半の約束にも間に合わず、キャンパスにたどり着くまでにかなりの時間とエネルギーを使ってしまった(帰り道は、いつもとさほど変わらなかった)。毎年恒例だった大型連休の渋滞を味わって、みんなが「おうち」から「おそと」へと向かいはじめていることを実感した。それはそれで、よろこぶべきことだ。

5月4日は、「バースデイ・イヴ」である。節目をむかえるときには、ひとりでバーにでも行って、ウイスキーグラスを片手にあれこれふり返ろう。わざと気難しい顔をして。ずっとそう思ってきたのに、10年前も、20年前の節目も、ドタバタしているうちに時間が過ぎてしまった。

今回は、ひさしぶりに街に出た。連休の中日(なかび)だったからだろうか、メトロの構内は思っていたよりも人が少なかった。ただ、デパ地下は混んでいた。ひさびさに見る光景にちょっと驚いたが、やはりデパ地下の食品やお菓子の売り場に人がたくさんいるのはいい。人混みに文句をいいながらも、こういう騒々しさは嫌いではない。買い物をして、そのあとで、あの老舗に行ってカレーを食べた。いつもは入り口に列ができているのだが、時間が少し早かったこともあって、すぐにテーブルに案内された。ここも数年ぶり。
東急ハンズをぶらついて、記念だから(じぶんにプレゼント)などといって、また万年筆(高価なものではない)を衝動買いして、キッチン用品のフロアを冷やかしてから外に出た。明治通り沿いを歩く。千駄ヶ谷あたりは道路の拡幅工事がすすんでいるのだろうか。ちょっと見慣れない雰囲気だった。

あと数時間で日付が変わろうとしていた。「密」を避けて郊外に移り住もうという人もいるが、ぼくは、この複雑で猥雑な東京が好きだ。わかりにくくて、面倒くさい。ガラスとコンクリートで整えられてゆくいっぽうで、雑居ビルや路地が、相変わらずぼくを誘う(いざなう)。雑踏に紛れながら、でも完全にとけ込まずにいるのがいい。あいにく、人影のない道を歩きながらのイヴになったが、10年後の今宵も、どこかを彷徨っていたい。ひとまず、元気に節目をむかえた。

友人、同僚、お世話になっているかたがた、そして卒業生や学生たちからも、お祝いのメッセージが届いた。みなさん、ありがとうございました。🙇🏻

写真は5月4日:夜の散歩