行ったり来たり

2021年7月10日(土)

6月の初めに、大学での職域接種がはじまることが発表された。予約システムさえまだ動いていないのに、なんだか明るい気持ちになった。くわえて、緊急事態宣言の解除にともなって、一部については対面の授業を再開した。4月にキャンパスで開講していた科目は、途中で2か月ほどオンラインになって、ふたたび教室に集まるということになる。
昨年は、春学期はすべてがオンラインになったので、最初からそのつもりで授業の準備や諸々の段取りをしていたが、学期の半ばでリズムが変わるのはこれまでなかったことで、いろいろと面倒だ。キャンパスに戻りたい想いはたしかなのだが、身体のほうがきちんと追いついていない。慣れというのは恐ろしいもので、朝の過ごし方がこの1年半でだいぶ変わってしまった。つねづね思うことだが、ぼくたちは便利なほうへ、楽なほうへと向かいがちだ。その適応力には、感心さえする。だから、かつては疑いなくこなしていた(はずの)身支度も通勤も、すぐに元どおりに戻せるわけではない。
でも、途中でオンラインに切り替わったまま夏休みになるよりは、最後の数週間、せめて春学期の「最終回」だけでも教室に集うことができればいいと思っていた。もちろん、ムリをするつもりはない(強いるつもりもない)のだが、少しばかり意地になっているのかもしれない。そんな心持ちで大学に向かう。
やはり教室はちがうものだと、あらためて実感した。みんな、マスクをして距離を取りながら座っているのは、馴染みのある光景ではないが、確実に学生たちの息づかいを直接感じることができる。なにより、平たい画面にいくつもの顔が整然と並んでいるのとはちがう。学生たちも、もう一度ひとつの教室に集まることができて、喜んでいるようすだった(むしろ、緩みすぎているのが心配なくらいだ)。そんな感じで過ごしていたら、春学期も残すところ数週間。気づけば7月になっていた。

7月1日は、授業のために大学に行く予定だった。学生たちとは、キャンパスでひさしぶりの再会を果たしたばかりだった。だが、天気が心配である。前日の晩に、藤沢市には大雨・雷の注意報が出ていた。雨が降っているだけでも、この状況下で通学するのは面倒だ。当日の朝、大雨警報が発令された。授業は11:00過ぎからはじまるので、朝8:00過ぎにオンラインで開講することを決めた。あとで聞いたら、何人かの同僚たちは、すでに前日の段階でオンラインへの切り替えを決めていたらしい。ぼくは、キャンパスで開講することに固執していたのだろうか。ギリギリまでようすを見ようとしていたのだと思う。
何人かの学生は、他の授業の都合などもあって、すでにキャンパスに向かっていたようだが、大きな混乱もなく、その日の授業はオンラインでおこなうことができた。こんなふうに、その日の状況に応じて開講形態を変えることができたのは、おそらくCOVID-19の影響を受けながら、授業のあり方や連絡の取り方についてあれこれと学んできたからだ。以前は、荒天の場合には、決められた時刻に休講にするかどうかの判断をしていた。いまは、そもそもキャンパスで開講されている授業が圧倒的に少ないので、数多くの授業にかかわる判断は必要ない。何らかの形で、これからもオンライン開講が常態化していくと考えると、さまざまな判断のタイミングについても再考することになるだろう。
身勝手なことをいえば、たまに天候によってもたらされる(不意の)休講を多少なりともありがたく思うこともあったのだが、もはや、天気が理由で休講にはなりえないということだろうか。うまく調整ができれば、出張先からオンラインで授業をすることもできる。環境の変化を見ながら、臨機応変にオンラインに変更したり、オンラインと対面と併用したり(ハイフレックス)、開講形態の多様化は、引き続き今後の課題だ。

7月3日は七夕祭だった。朝から強い雨。藤沢市には大雨・洪水警報が出ている。今年の七夕祭は、オンラインと会場からの配信を組み合わせるというものだった。去年は、すべてが画面のなかにつくられた仮想のキャンパスでおこなわれた。ぼくは、ロボットのアバターを纏って、人工的につくられた夏空に打ち上げられる花火を眺めた。今年は、リアルな花火が準備されている。もちろん、キャンパスに出かけて、熱気のなかで花火を見ることはできないのだが、今年は、本物の花火が本物の夜空に打ち上がるようすを画面越しに見ることができるという企画だ。
午前中、打ち上げ場所となるグラウンドが水に浸っているという連絡が届いた。冠水したグラウンドの写真が共有されて、。だが、昼前には雨が上がった。朝のようすからは絶望的な感じだったが、水が引いて、けっきょくは予定どおり進行することになった。
花火が上がった。ぼくは、自室の電気を消して、花火のライブ配信を眺めた。花火が煌めいて、そしてあっという間に消えてしまった。同時につないでいたのは、(ぼくをふくめて)130人。もちろん、物足りなさはあるものの、誰かがどこかで、同じ時間に同じ花火を見ていた。そのことが、うれしかった。

そして、4回目の緊急事態宣言の発令(7月12日から8月22日まで)が決まった。行ったり来たりは、もういやだ。

f:id:who-me:20210703194135j:plain写真は7月10日。画面越しに花火を眺めた。