カレンダー

2020年3月1日(日)

🍵先日、仕事の帰りに「SFC30」という焼き印入りのどらやきをもらった。労いのしるしとしては、なかなか気が利いていると思った(ありがとうございます)。そう、今年は創設30年を迎える年なのだ。

ぼくたちは、「学事日程」が記されたカレンダーとともに過ごしている。あまりにも〈あたりまえ〉になりすぎているので、とくに何とも思わないかもしれないが、大学には大学の、会社には会社の時間の流れがある。もちろん、一つひとつの家庭にも、一人ひとりの暮らしにも、さまざまな予定や段取りがある。大学の場合、たとえばいまの職場なら、春学期と秋学期が15週間ずつ、つまり(1年間のうちの)30週間に、カレンダーが集約されていると理解できる。そして、そのなかに、入学式や卒業式などのイベントが散りばめられている。授業やゼミは、時間割によって調整され、30週間のなかで規則的にくり返される。
しばらく勤めていることで、このカレンダーが、少しずつ身体になじんでいったようだ。カレンダーにも書き込んでいるが、いつごろが忙しくなるのか、つぎに何があるのか、感覚的にわかるようになった。なんとなく、心の準備もできる。フィールドワークや展覧会など、じぶんのゼミに固有の予定については、30週間のなかでだいたい定位置が決まっている。

いっぽう、学生たち、あるいは他の先生がたが企画する展示や成果報告会などの予定は、個別に告知されることが多い。時間もエネルギーもかぎられているのだから、すべてのイベントに参加することはできないのだが、直前に告知を目にしたり、気づけば終わっていたりということもある。理想的には、いろいろなイベントをなるべく一つのカレンダーに束ねておけるといい。
一学期を構成する15週間に、それぞれゆるやかなテーマを設定して、そのなかでキャンパスでの企画を位置づけてゆくのはどうだろう。「週替わり」のメニューのようなものだ。昨年末あたりから、そんなことを考えている。なお、このアイデアは「オフィシャル」なものではない。ぼくが原案をつくり、おもに同僚の松川さんと一緒に考えているものだ。

たとえば、キャンパスには3つの学部があるのだから、3週間連続でそれぞれの学部に光を当ててみる。つまり「総合政策ウィーク」「環境情報ウィーク」「看護医療ウイーク」を演出するのだ。それぞれの週のどこかで、学部長が演説(ピッチ)をおこなうのはどうだろう。おなじキャンパスに3つの学部があるのだから、お互いにそれぞれの個性を理解しておくことは大切だ。留学生が増えているから、どこかに「インターナショナルウイーク」を設定して、異文化に触れる機会をつくる。もちろん、その一週間にかぎる話ではないが、多様な外国語科目が提供されていることを知るのにも役立つはずだ。
「遠藤ウイーク」では、キャンパスの周辺に暮らす人びとと交流するイベントを企画する。滞在棟など、あたらしい施設も少しずつ形になってきているので、なおさらのこと、キャンパス界隈について知るきっかけにもなる。「防災ウィーク」もあるといい。防災にかかわる意識を高め、キャンパスのもつさまざまな設備・装備について知識を深めておく。このタイミングで、炊き出しの訓練もできるかもしれない。
昨秋、学生たちの発案で「クリエイティブウイーク」が実現した。学生たちの成果物を、一週間(実際には数日だったけど)にわたってキャンパス内で展示するという試みだ。すでに触れたように、授業やゼミの成果報告は個別に企画されているので、たとえば「リサーチウイーク」と呼んで、学期中の「節目」にあらかじめ設定しておけばいい。その週に合わせて展示や報告会を計画すれば、交流の場も生まれやすいだろう。
ぼくが、ぜひふくめたいのが「クリーニングウィーク」だ。学期の終わりには、みんなで整理整頓を心がける。あらたな気分でつぎの学期を迎えるための準備かもしれないし、つぎに使う誰かのためにするべき、礼儀のようなものかもしれない。掃除をしてゴミを捨てて、スッキリする一週間だ。
最後になったが、毎学期の始まりと終わりもきちんとメリハリをつけておきたい。新入生を迎えるのは「オリエンテーションウイーク」だろうか。卒業生たち(そして学生にかぎらず広い意味で「卒業」するみなさん)に、「テイクオフウイーク」をとおして感謝と送別の気持ちを伝える。そんなふうに15週間を仕立てて、春と秋で30週間。

先ほど「オフィシャル」ではないと書いたが、そもそもこの企画は「オフィシャル」でなくてもいいのだ(そのはず)。カレンダーをつくって共有し、それぞれが週ごとのテーマに即して企画を提案し、実施すればいいからだ。「週替わり」についての基本的な考え方をまとめて、手続きの方法を整えておけば、一人ひとりが自律的に参加できるような仕組みができるはずだ。

こんなカレンダーを考えていた矢先に、新型コロナウイルスのことで、暗い気持ちになる。イベントや、さまざまな集まりが中止になったり延期になったり、その連絡や調整でもかなりの時間とエネルギーを奪われている。そして、ついに卒業式・学位授与式の中止、入学式の延期が公式にアナウンスされ、ここ数日で一挙に縮退ムードだ。
それでも、カレンダーをつくることはできる。大切なのは、ひとつのカレンダー(あるいは時節感のようなもの)が共有され、お互いに時間を出し合って集うということだ。それは、30年という節目をお祝いする気持ちから思いついたものだが、続けていれば、少しずつ〈あたりまえ〉になってゆくはずだ。カレンダーは、キャンパスでの出来事が刻まれるたびに成長する。どらやきを食べながら、来たるべき30週間を想い浮かべた。

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写真は2020年2月某日。どらやきをもらった。